染と織地域別辞典

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栗駒正藍染(くりこましょうあいぞめ)

産 地

宮城県栗駒市

特 徴

初夏の気温で藍を発酵させる、藍の原始的自然染色法「冷染、正藍染」を用いて染色する。
藍染はふつう、藍瓶を火であたためながら一年を通して染めるが、栗駒正藍染では人工的な保温、加熱をいっさい行わず、五月頃からの気温の自然上昇を利用して木桶に入れた藍を自然発酵させる。そのために「冷染」とも称された。しかし、昭和四一年に「温度を下げるわけではないのに冷染というのは不適当」という理由から「冷染」の名称をとり去り「正藍染」と指定名称を改めた。
栗駒正藍染のもうひとつの特徴としてあげられるのが仕事へのかかわり方である。正藍染では、麻植え、藍の種まき、糸とり、機織、染などのすべての工程が他人の手をわずらわすことなく一貫して行われる。

栗駒正藍染(くりこましょうあいぞめ)

変 遷

「冷染、正藍染」の技法の起源は奈良時代とされるが、明らかではない。江戸時代、伊達藩の藍栽培の奨励により、藍が栽培されるようになった。また、農民には絹物の着用が禁止されていたこと、東北地方の気候が綿の栽培に適さないことなどから、この地方では大麻、苧麻、蕁麻などが栽培されていた。そのため、麻布を織り、藍で染めることは祖母から母へ、そして娘へとうけ継がれる女の仕事であった。
昭和三〇年に千葉あやのさん(故人)が重要無形文化財技術保持者に認定されたのも、そうした背景があったからである。あやのさんは、もともと機織にすぐれていたが、千葉家に嫁いでから藍染技法を伝授され、昭和三〇年に人間国宝に指定されたのである。
現在、その技術は娘のよしのさんに伝承されている。

染色法

正藍染は次のような工程で一貫して行われる。
*麻布 四月に大麻の種子をまく。七月下旬から八月上旬にかけて収穫し、冬季に麻を糸により、高機で織る。
*藍 五月上旬頃苗代に種をまく。刈りとった藍はすぐに葉をしごきとって天日でかわかし手でもむ。これを二、三回繰り返してから俵に詰めて貯蔵する。二月頃、もみ殻とわら束を敷いた土間のうえに莚を重ねて藍床をつくり、水洗いした藍葉を山盛りに積む。積んだ藍葉に莚とわら束をかぶせ三、四日置いておくと藍葉は発酵して熱をもつようになる。一、二週間ごとに藍葉に水をかけ上下を反転させる。これを繰り返して藍葉が熱をもたないようになったら、四月まで置いておく。
四月に藍葉を床から出し、藍葉を臼で餅のようについて十センチ程度の藍玉にし、乾燥させる。藍玉は、乾燥してから栗の実くらいの大きさに割り、保存する。
藍建ては、木桶に藍玉と木炭灰のかたまりと三十五、六度の湯を入れて行う。初めの一週間は毎日湯をそそぎ入れる。一週間ほどすると泡が立ち始めるので、泡の量が多くなったらかき混ぜる。泡の色が濃い紫色になるまでこの作業を繰り返す。藍汁の中央に濃い紫色の泡が立ってくれば、藍汁のできあがりで、染められる状態になったことを意味する。藍がよく発酵するのは五月頃である。
*染色 まず麻布を一度煮て水にさらしてから、麻布一反に、伸子針十二本を張って藍汁に沈める。藍汁の中では布を広げ、三十分ほど浸してから引きあげて風を入れ、発色を促す。これを三回繰り返してから水洗いをし、豆汁を引き、陰干しして乾燥させる。
*木炭灰 薪炭(楢炭)から木灰をとる。炭のかたちをそのまま残した灰のかたまりでなくてはならないという。